A:最凶の地竜 パイルラスタ
霊峰ソーム・アルは、活火山でもあるんだ。だから、彼の山の麓にあるという大洞穴には、溶岩が川のように流れていると聞く。そうした暖かな環境が、アルケオダイノスのような、原始的な甲鱗綱の魔獣を育んでいるようでな。ドラゴン族の眷属として利用されているんだ。特に「パイルラスタ」の名で恐れられる獰猛なアルケオダイノスには警戒が必要だろう。
最凶の眷属と呼ばれるだけのことはあるぞ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
あたしはずぶ濡れになって大きな岩から岩、巨木から巨木に身を隠しながら移動していた。
自慢ではないが泳ぎは得意な方だ。だからといって寒さの厳しい高地ドラヴァニアで服を着たまま流れのきつい川で泳ぐほどあたしは陽気な性格ではない。つまり、あれは事故だった。
あたしと相方は高地ドラヴァニアに生息するパイルラスタを探していた。
パイルラスタとはソーム・アルの大洞窟のような特殊な環境が保存したと考えられている原始的な容貌・性質を持つアルケオダイノスという所謂恐竜のような竜の眷属、パイルラスタはその特異体だ。眷属の中でも最凶と言われるこの個体は当然のようにAランク指定されている。巨大な顎と太い尻尾による一撃は驚異的な破壊力を持っている。
そのパイルラスタとの交戦中、真上から振り下ろされた尻尾の一撃を横っ飛びに飛んで、華麗に躱したまでは良かったが足場の岩が崩れ、岩もろとも流れのはやい川に落ちてそのまま滝に吸い込まれたのだ。幸い落ちた先の滝壺はことのほか深くて助かったが、魔法を使うための杖や大事にしていた帽子は川に流されてしまった。息も絶え絶えに滝壺の淵に泳ぎつき、息を整えていると、背後で轟音と共に滝壺に大きな水柱が立った。
「なっ…⁉」
思わず言葉にならない声が出た。
あたしは目を疑った。パイルラスタが何故かあたしを追って飛び下りてきたのだ。
「うそでしょ?」
崖上にはまだ相方がいて戦闘中のはず。上を見上げると滝の淵から下を見下ろす相方の驚いた顔が見えた。
「何??何なの?」
あたしの強烈な魅力が種族の壁をぶち壊しパイルラスタを虜にしたのだろうか?いや、迷惑だ。
いくらあたしが可愛らしいからと言って美味しいとは限らないし、そもそもあんなでかいトカゲ、あたしの方はお断りである。
求愛にしても、求食にしても、いずれにしても応戦が必要だ。
あたしは慌てて杖を探したが、水量が多く、流れも尋常じゃない程早い川に流された杖は見当たらなかった。魔法が使えない黒魔導士など、街角に捨てられている子猫ほどの戦闘力しかない…若干言い過ぎた、もうちょっとは強いかもしれない。
焦ってパイルラスタの方を見ると、滝壺の真ん中あたりでアップアップしている。思ったより滝壺が深かったうえに、体つきからも推測できるが泳ぎは得意ではないらしい。
あたしはどこからどう見ても思ったより深かった滝壺で足が底に付かなくて溺れているようにしか見えないパイルラスタに背を向けて走って逃げ出した。これが冒頭の状態だ。
しばらく当たりの様子を窺いながら、身を隠して移動していると大きな洞窟を発見した。霊峰ソーム・アルは活火山であるため、このあたりの洞窟は中が地熱で温かい。運よく溶岩の川でもあれば濡れた服を乾かせるかもしれない。あたしはキョロキョロと周囲を窺うとその洞窟へと逃げ込んだ。
洞窟の中は思った通り温かかった。洞窟は奥に長いタイプではなく縦に延びていて、はるか上空に穴があり、その隙間から空が見えていた。
濡れた服は体温と体力を奪う。あたしは服を脱ぐと温かい岩肌に広げて乗せて乾かすことにした。服を乾かすその脇に横になると温かい岩肌が気持ちいい。あたしは目を閉じてじっとしていた。
岩に暖められた暖かい空気が天井の穴から抜けていくため、洞窟の入り口からは絶えず風が吹き込んでくる。目を閉じて風を感じる。パラパラと風に乗って砂が降って…砂?
「逃げて!」
鋭い声がしてあたしは慌てて目を開けると飛び起きて逃げ出した。
するとあたしが今まで転がっていた岩の上に、固い皮膚に長い爪の下品な足が落ちてきて岩を踏み潰した。見上げると同時にパイルラスタが大きな顔を上に向けて叫び声を上げた。
「何よ!しつこい!溺れなかったの?」
無防備なあたしとパイルラスタの間に相方が走って割り込む。
「来てくれたんだ!」
あたしが歓喜の声を上げると、相方は顔を半分こちらに向け、いぶかしそうな目であたしを見て言った
「なんで裸なのよ?まさか…」
あたしは全力で首を振ってパイルラスタとの関係を否定した。